大相撲解体新書
力士徹底分析
力士徹底分析
データや相撲内容などを資料に、力士ごとに分析する。
過去のパラメータ比較なども。
第1集.横綱朝青龍
検証1 17〜19年のデータ比較 <19年>
<18年>
<17年>
やはり年間完全制覇の17年ごろが最も高い評価(スタミナは評価基準を厳格にしたため、大きくダウンした)。 技も、外掛けから切り返し、切り返しから吊り落としという必殺技が目立っていたが、最近は左四つ右前褌での寄りの型を多用している様子を表現した。 下手投げ・掬い投げより上手投げが多くなったのも注目ポイント。差し身の良さは相変わらずだが、やはり大横綱には上手からの技が似合う。 立合いも突き放して圧倒する取り口は減り、張差しも減少傾向。頭を下げずに左の肩からぶつかって差す安定度重視の立合いの割合が高くなっている。バリエーションは豊富で、表のスペースに収まりきらない。 場所の展開も、スタートダッシュでストレート給金、逃げ切りがほとんどだったが、最近は後半にいくほどエンジンがかかる傾向が目立つ。場所前の稽古を緩めにして、本場所の序盤戦を踏み台にして終盤にピークを持っていくのは円熟期の千代の富士(53連勝のころ)とも比較される。確かに序盤は不安定な内容を見せるが、相撲勘で勝ってしまい、成績的にはスロースタートとは言わせない結果を残している。 検証2 大横綱朝青龍の30敗 新入幕から12場所目、大関2場所目での初優勝から、26場所で20回の優勝。史上最強の独走で、相撲界を席巻する横綱。ここまで強いと粗を探したくなるのが人情。その強さの証明はし尽くされているとも思うので、あえて黒星ばかりを取り上げて、「粗」を探ってみる。別にアンチではないので、お気を悪くなさらないよう。
朝青龍が大横綱への道を歩み始めたとされる16年以降(1月から連続全勝で35連勝を記録)19年1月までの希少な30個の黒星を並べた。 16年に12敗。17年に6敗。18年は11敗(不戦1、や11)。負けが込んだのは、怪我のあった16年9月の6敗、18年1月の4敗くらいだ。 では、分析に入る。 @決まり手 寄り9 押し5 吊り1 投げ技5 引き技6 送り2 掛け1 不戦1 寄り:胸を合わされての寄りに屈したのが最も多かった。綺麗に1年3番ずつ。16年は魁皇に2場所続けて右上手を許して敗れているほか、普天王・琴欧州・黒海・白鵬・稀勢の里に、先にがっちり上手を引かれて寄り切られた(千代大海、栃東戦は結果は寄り切り・寄り倒しだが、実質は押し相撲に後退して最後に組んだもの)。琴欧州、白鵬戦は右四つ、他は左四つでの敗戦。 押し:突っ張りを捌き切れず、強引な引きや張り手で速攻を許した敗戦。しかし16年に4番が集中しており、17年18年は一番も突き切られなかった。突っ張り合いからの敗戦も、強引に出て行って捨て身の引きに落ちた黒海、千代大海戦の2番だけ。もはや朝青龍に突き押しは通用しないのかと思われた。が、この1月久しぶりに押し出しの負け。出島の出足に3発で吹っ飛ばされたもので、新横綱時代からほとんど記憶にない負け方だっただけに衝撃的だった。 吊り:体は大きくない横綱だが、吊ることはあっても吊られることはない。ただ一番の例外が旭天鵬との一番。がっぷり組まれてあっさり運ばれた。この敗戦以降、徹底して旭天鵬にしっかりと組ませることを嫌い、多彩な技で先に動いて翻弄している。いまや琴光喜戦につづく連勝カード。 投げ:足腰が良く、めったに投げられないのが朝青龍。新横綱のころは琴ノ若などによく投げられていたが、以後ほとんどなくなった。16年はゼロ(取り直しとなった琴ノ若戦で疑惑の「ぶら下がり」があった)、17年は琴欧洲に土俵中央脳天から叩きつけられた一番のみ。18年は1月場所だけで3番投げられた。白鵬の小手投げに右肘を壊され、そのあと逆の右上手投げに2番負けた。白鵬には翌場所も投げ技で這わされ、この年の前半は前にのめるシーンが目立っていた。ただ、下手投げ・掬い投げの負けは一番もない(下手からの投げは、新横綱場所旭天鵬に掛け投げに敗れたときだけ)。 引き:「押し」のところで出た2番は「引き落とし」「素首落とし」。まともな引き技で落ちたのはこの2番くらい。下がりを振り回して物議を醸した横綱2場所目の旭鷲山戦もそうだったが、明らかに冷静さを欠いてムキになって出て行ったところ、際どく落ちたもので、いずれも物言いがついている。かならず取組後カンカンになる。のこりの5番は突き落とし。寄って出るところを土俵際潰されたものが多い。若の里には3回もやられている。ただ、17年からは激減、18年5月の若の里戦は土俵下に転落して休場に追い込まれたが、突き押しをかわされたもの。寄り身が厳しくなり、窮余の突き落としはもはや通じないようだ。 送り:素早い横綱が後ろをとられた珍しい負け方。大抵はくるりと回転して(自称shall we dance)逆に相手を動揺させてしまうのだが、2番だけ後ろを攻められた。どちらも強引な技がすっぽ抜けて後ろを見せた。 掛け:安美錦の外掛けに尻餅をついた。しつこい相手に強引な掬い投げを打ち、軸足を狙われた。後にも先にもこんな負け方はこの一番だけ。この時は6連覇が懸かった場所だったが、この敗戦で琴欧州に2差をつけられた。やはりこの横綱にとっては先行逃げ切りが優勝を勝ち取るパターン。大事な場所での追いかける展開が焦りを生み、思いもよらない負け方をしたのだろう。
A対戦相手 複数回敗れているのは、 栃東4 白鵬4 若の里3 魁皇2 千代大海2 琴欧洲2 黒海2 (参考:横綱トータルでは栃東6若の里5魁皇4千代大海3出島2旭天鵬2) 対戦回数の多い大関戦だが、とても勝率が良い。朝青龍が連敗したのは魁皇・栃東・白鵬。いずれも綱取りまであと一歩まで迫ったことがあったが、そのときに2場所連続で黒星を喫している。逆に言えば、綱取りの時の好調さをもってすれば横綱も倒せるのではあるが、いずれも単発。五分に近い対戦成績を誇った魁皇は綱取りをねらった16年暮れ以来2年間勝てず。栃東は最も朝青龍が嫌がる相手とされていたが、18年3月以来負け続け。怪我を負った状態での対戦が多く、よく粘って対戦成績が開いてきた。千代大海は2年に1回勝てるか、勝てないか。琴欧洲も大関昇進後はさっぱり相手にならない。白鵬は3連勝したが(決定戦除く)、また連敗中。2人とも驚異になりそうだったが、怪我で勢いが止まってしまった。朝青龍はこうした運にも恵まれている。 三役力士では、琴光喜が24戦勝ちなし。雅山も朝青龍が絶不調の16年9月だけ。実力者の三役力士が大関陣以上にお得意様になっている。3年間も三役に定着していた若の里は朝青龍にとって難敵。毎場所期待を持たせていた。しかし、17年後半から故障がちになり、三役を遠ざかっている。それでも1場所だけ上位に復帰した18年5月では金星。だがこの場所での怪我で十両まで番付を下げている。昨今の朝青龍は、嫌な強豪関脇が勝手にいなくなり、合口の良い琴光喜と雅山が関脇に定着してくれるという幸運にも恵まれている。 平幕には負けてもめったに2度は負けない。前述の旭天鵬も、嫌なタイプだったが克服、2年半負けなし。出島には2敗目だが3年間負けていなかった。やや難敵といえるのは黒海か。怪力が持ち味で2敗の内容も突き押しからの叩き、左四つからの寄り、と違うパターン。突き押しに下がった時は危ない。荒い相撲な分、これだけ気をつければ大丈夫というポイントが掴みづらい。いちかばちかの思い切りの良さもやっかい。安定感のない力士だが、横綱戦に関しては期待の持てる方だ。
<続く/07年02月10日> |