大相撲解体新書

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四 股 名

 

壱 現代四股名事情T

弐 現代四股名事情U

参 現代四股名事情V


 壱 現代四股名事情T

四股名、まずは詳細に分析を

@構成、A使われる文字 2部構成で、四股名の傾向を分析する。

 

@構成

四股名は全体で一つの言葉を構成するタイプと、二つ、三つに区切れるタイプがある。たとえば、「朝青龍」は朝+青龍。「出島」などは本名そのままだから切れ目がないタイプ。ただし、「の」「ノ」「乃」は構成の数に含めないものとし、従って「豊ノ島」は「豊」と「島」の二つに切るタイプに分類する。

まず、19年3月場所の番付で分類した結果を表にまとめた。

  関取人数 主な力士
切れ目なし 13 垣添、出島、岩木山、黒海、白馬、把瑠都、普天王、光法、海鵬
2つに分かれる 47 朝青龍、千代大海、白鵬、琴光喜、時天空、雅山、稀勢の里、土佐ノ海
3つに分かれる 10 旭天鵬、安美錦、豊真将、白露山、寶智山、豪栄道、武州山

 文字ごとに見るには、四股名の由来にも注意しなければならない。二文字で一つの言葉と見なせるかどうかが判断のポイント。「琴欧洲」、時天空や白馬という一般的な熟語からとっているから分かりやすい。稀勢の里は微妙で、「稀なる勢い」という意味の造語であるが、二字セットで意味をなる造語だからひとかたまりとみなす。琴光喜の「光喜」も、「光る相撲で客を喜ばせる」ということからの造語なのだが、いまや定着しているから熟語に準ずると判断。「玉力道」は、「力道」が熟語ではないがセット。北勝力は、「北勝」という言葉はもちろん存在しないが師匠「北勝海」から取っているので、これも熟語に準ずる。逆に白露山は、「白露」という熟語はあるが露はロシアの露であり、白と露は別々であるとした。

 固有名詞そのままの場合も、ひとかたまりとする。「岩木山」は2つにも分けられそうだが、固有名詞としての岩木山からとっているので分かれていないと考える。


 

A使われる文字

 こうして集計すると、圧倒的に2つに分かれる四股名が多いことがわかる。そこで、四股名を前後に分けて、それぞれ使われている語句を分析する。

 1)まずは切れ目のない四股名の構成から。

  主な力士 参考(過去の力士)
伝統・先代 栃東、大翔山、若浪、佐田の海 柏戸、朝潮
本名など 出島、垣添、十文字、里山、片山、(霜鳥) 輪島、寺尾、明武谷
地名等そのまま 岩木山、黒海、把瑠都  
漢語・熟語など 白馬 大鵬、大受、益荒雄、麒麟児
一文字 曙、鳳
その他 普天王、海鵬、光法  

 一部、伝統名は切れ目のはっきりしないものがある。本名から姓をそのまま付ける時も分かれ目がない。母の旧姓をつけた寺尾、わずかにもじった明武谷もここに分類。輪島は本名であると共に、地名の影響もあった。大鵬は漢語から取った四股名。益荒雄は「益荒男」から。光法や普天王は全体でないと四股名に込められた意味が発揮できない。海鵬は、「海鵬丸」という船の名から。

 

 2)次に、2つ以上に分かれる四股名を前後に分けて分析する。

 @)まずは四股名の半、「冠」部分から

 前   人数 主な力士 参考
部屋由来 部屋名から 安(安治川)、駒(放駒)

春日(春日野、春日山)

出羽(出羽海)、武(武蔵川)

時・時津(時津風)

  安美錦

春日王

 
師匠・伝統名から 琴(佐渡ヶ嶽)、鶴(井筒)

玉(片男波)、貴(貴乃花)

栃(春日野)、千代(九重)

大翔(追手風)、北勝(八角)

隆(鳴戸)、豊(時津風)

  千代大海

朝青龍

旭天鵬

玉春日

高見盛

北桜、鶴竜

 
地名等由来 現在地名     三重ノ海

栃木山

旧国名 土佐、陸奥、江戸、飛騨

露(露西亜)、琉(琉球)

  土佐ノ海、露鵬

須磨ノ富士

武蔵山

肥後ノ海

その他 東西南北など     北の富士

北天佑

南海龍

人名由来 本人姓     白乃波、霜鳳 大内山

濱ノ嶋

本人名     雅山、豪栄道  
師匠・恩人の姓     (保志光)

(寺尾丸)

前田山

吉葉山

漢語・熟語など   稀勢の里、      
接頭辞   大、小   大真鶴、大雷童 大乃国
その他       駿傑、嘉風

豪風、白鵬

皇司

清国

    最近は、地名を使う関取が少なく感じる。一方で、先代から一字もらうケースは増えている。本名のままも力士も多い。

    「大」がつく力士も、大乃国を筆頭に、大翔山、大翔鳳、大若松に大乃花、大至や大善、大竜に大岳と平成初期は溢れていたが、激減した。

 

  A)続いて、の方の文字の分析

    人数 主な力士 参考
自然など     雅山、武州山

白露山、寶智山

双葉山

羽黒山

    徳瀬川 男女ノ川

若瀬川

    時津海、(千代大海)

土佐ノ海、

北勝海
    豊ノ島 安芸乃島
    栃乃花 若乃花

貴乃花

その他

自然などに

由来するもの

洋、光、桜、峰(嶺)

浜、濱、国、森、音

城、風、湖、響、潟

里、浪、波、富士

吹雪、嵐、丸、谷、稲妻

  栃乃洋、春日錦

潮丸、白乃波、北桜

北の湖

大乃国

鏡里

琴風

 

動物     鶴竜 闘竜
    朝青龍、朝赤龍 琴龍
その他 馬、鳳、鳥   安馬、霜鳳

出羽鳳、玉飛鳥

 
志・位など     普天王、春日王  
    魁皇、龍皇  
    北勝力 貴闘力
その他 将、心、真、若、昇、輝

登、不動、晃、勇、盛

  豊真将、高見盛 松登
  甲、牙、錦、車     栃錦
人名 本名     琴奨 武蔵

貴ノ

花田

花田

地名

出身

 

地域名     琴欧洲、 若秩父
旧国名        
出身校 栄、響   栃栄、豪栄道

豊響、玉春日

 
その他 東西南北など   旭南海 栃東
部屋 師匠、先代名 風(尾車)、司(入間川)

富士(旧九重、中村、安治川)

東(玉ノ井)、里(鳴戸)

傑(放駒)、麒麟(旧押尾川)

緑(阿武松)

  若の里、稀勢の里

皇司、嘉風、豪風

安壮富士、駿傑

若麒麟、須磨ノ富士

 
  伝統名 梅(梅ヶ谷)、鵬(大鵬)

若(若乃花)、真鶴、力道

 

  白鵬、露鵬、琉鵬

旭天鵬、若ノ鵬

隆乃若、大真鶴

琴ヶ梅
  部屋名 富士(旧富士ヶ根)、旭(大島)

武蔵(武蔵川)

    東富士
           
           

   目立つのは「鵬」の大流行。日本人から外国人まで、各部屋一人の勢いで付けられている。今ごろ大鵬の人気が沸騰したわけでもあるまいが、なるほど大鵬親方の定年退職で、遠慮せず付けやすくなったのかもしれない。白鵬、旭天鵬、露鵬(旧大鵬部屋)、若ノ鵬など、大鵬を髣髴とさせるスケールの大きな外国人力士がつけている。日本人でも、海鵬(別由来)、琉鵬、千代白鵬など体型は違うが名乗る力士は多い。

   「花」の人気は、貴乃花引退と共に、二子山凋落とともに、衰えてしまった。これも一時は各部屋一人いるほどだったが、いまや栃乃花くらいか。

<平成18年記>


弐 現代四股名事情U

 <特徴的な一字>

一目瞭然の革命的な四股名

 少しテーマを変えて、四股名のうち一文字を見れば誰かわかる、という代表例をあげてみたい。

 両横綱は、青、白という色を表す一字が対象的であり、一文字でイメージがつく。しかし、文字自体は珍しくもなく、「白」などはモンゴル人力士を中心にかなり現役力士に使われているため独自性は強くない。かつての若、貴のように、同じ字を使う力士は山ほどいても、もうこの人しか浮かばないという存在である。栃、若などもそうである。柏戸、大鵬もそんな存在だが、さすがに大鵬の「大」は特徴がなさすぎること、「鵬」の字が当時珍しかったことから、大横綱といえども頭文字は使われず。北の湖も同様。

 大関では、ベテラン千代大海、魁皇がそれぞれ頭文字の「千」「魁」で十分区別がつくが、どちらも師匠譲りの冠であり、同部屋の弟弟子たちも名乗っているからやはり独自性はない。それでも幕内には一人だけであり、一文字で区別可能な例である。日馬富士は「日」が意外と独自性がある。イメージとしては「馬」の方が安馬時代からなじみがあるが。同部屋の2大関は、琴欧洲が「欧」の字ではっきり納まるのに対し、琴光喜は「琴」がダメなら「光」もどちらかというと頭文字にしている光龍の方が先に出てきてしまう。3文字目の「喜」が一番独自色があるだろう。

 関脇以下で、独自性・判別性でトップクラスなのは、「稀」「把」「雅」「霜」「垣」「阿(または覧)」「普」「隠」「境」「煌」。苗字や当て字には珍しい(力士らしくいない)字が先頭に出てきてわかりやすいが、「稀」「雅」は純粋にわかりやすい。

 ついでに、「猫」(猫又)、「右」(右肩上り改め右肩上)、などは古今東西でもなかなかお目にかかれないだろう。

 第二グループ、「盛」「心」「猛」「嘉」「鶴」「響」「岩」「赤」「翔」「美」「十」。幕下以下まで含めれば独自性は強くないが、関取クラスでは十分判別可能。徳瀬川の「コ」も旧字体なので、徳真鵬との区別はつくが、マニアックすぎてわかりにくい。土佐ノ海の「海」が旧字体だから、というのも同様。

 逆に、一文字ではどうしようもないグループ。海鵬、豪風、玉乃島、豊ノ島、土佐豊、若の里、星風、白馬、豊桜、旭天鵬、豊真将、徳真鵬など。3文字もあれば何とかなりそうなものだが、意外と重なっていて難しい。

 最後に、一文字でも判別可能な歴代の四股名。「輪」島、「両」国、北天「佑」、「寺」尾、高「鐡」山、高「望」山、「益」荒雄、「追」風海、「舛」田山、「増」位山、「維」新力。四股名の特徴的な部分を、部屋持ちになった際に、その部屋の象徴として弟子に引き継ぎ、いつの間にかその時がポピュラーになることもある。大鵬の「鵬」は大鵬部屋の枠を超えてスケールの大きい力士への期待を込めてつけられるようになった。北の湖の「湖」なども、部屋を超えたものになっている(あまり大成した力士はいないが)。

 今後も、ファンの度肝を抜く、やられたっと膝を叩かせるような命名の妙を期待したい。そういった期待もあって、毎場所番付発表時の改名にはわくわくさせられる。

<平成21年記>


参 現代四股名事情V

 <伝統的な四股名>

角界に伝わる四股名の絶滅危機 大関雷電復活を願う

 部屋ごとに、特徴的な四股名のつけ方というものがある。師匠の四股名の一字を取ったり、部屋の名前から一字取ったり。さらに特徴的と言えるのが、その部屋ゆかりの四股名の継承。師匠の四股名、かつての名力士、さらには江戸・明治の強豪など、オールドファン感涙の懐かしい四股名が現代によみがえることがある。歌舞伎の中村〇〇や市川××、落語の三遊亭△△ように、常に伝統ある名前が継承され続けるのではなく、突然に復活するからこその面白みがある。

 さっそく例を挙げていくと、現役力士では、やはりまず「玉乃島」。片男波部屋伝統の、というほど襲名した力士は多くないが、横綱玉の海が大関時代まで名乗っていた四股名である。最終名でなく、出世の途中まで名乗っていたというところが逆に魅力。平成12年、玉ノ洋の四股名で新入幕を果たしたが、陥落。十両優勝で再入幕した場所で玉乃島を襲名した。大きな期待に応えて三賞を受賞し、関脇も経験したが、故障が多く「大関玉乃島」復活はならなかった。

 あまり現役力士で伝統名は見られない。部屋が分裂しすぎたせいもあるだろうか。部屋ゆかりの四股名を名乗っていた力士が独立してしまうと、その継承権はどちらにあるのか難しく、角が立つのでお互いに遠慮してしまうところがあるのか。伊勢ノ海部屋伝統の「柏戸」は、鏡山部屋を興していてしばらく出そうにない。二代若乃花の間垣も、四代目は本家の流れを組む貴乃花部屋からは出ないとは言え、簡単に名乗らせられる四股名ではない。

 また、外国人力士が幕内の三分の一を越える現代、なかなか由緒ある四股名はつけにくいという事情もある。かつてのハワイ勢は、高砂部屋ゆかり高見山小錦を与えられたが、今は敬遠ぎみ。小錦が退職後、芸名として名乗るかどうかでトラブルになった経緯も関係しているかと思う。(結局、元大関小錦は「KONISHIKI」としてタレント活動することで落ち着いた。)

 そういうご時世、付けやすいのは、師匠や二世力士なら血縁関係のある四股名。親子優勝の大関「栃東」は引退して関取ではいないが、幕下以下では、父親が三役力士の「佐田の海」、師匠譲りの四股名「大翔山」、現在は若い浪に戻したが、一時平幕優勝経験のある叔父の四股名を襲名した「若浪」。それを足しても少ない。

 たまたま同じ、という四股名なら何人かいる。土佐ノ海、岩木山、若の里、豊桜あたりはありがちな四股名といっては失礼だが、部屋に縛られることなくかつて名乗った力士がいる。また、微妙に違うが、特徴が似ているというパターンもある。将来を嘱望された東京空襲で死亡した関脇豊島という力士がいたが、背は低いが固太りの体形で、まさに関脇豊ノ島とイメージがかぶる(意識してつけたかは不明)。また、佐渡ヶ嶽部屋は長きに渡って「琴」に固執しているためかネタ切れ感が強く、よく似た四股名が多いが、幕内在位史上3位の長身力士琴ノ若の前にも、コンコルドと呼ばれた長身琴若がいた(そのほか、琴富士に琴乃富士、琴龍に琴の龍、など出尽くした感が強い)。

 昭和から平成に変わる頃は、まだ懐かしい四股名がよく見られた。若乃花、貴乃花の兄弟はもちろん、朝潮、小錦、逆鉾、常の山、鳳凰、大錦、琴錦など。昭和の頃は割と近い時代の力士名を使い回す(ちょっと言葉が悪いですが)ことが多かった。NHKで映像を間違えられた「玉ノ海」は、解説で有名な玉ノ海さん、黄金廻しで平幕全勝優勝した玉「乃」海、横綱になって襲名した先述の横綱玉「の」海と、数十年間に3人もいた。「若乃花」も3人だが、初代横綱若乃花幹士の師匠花籠も一時若ノ花を名乗っていたことがある。挙げれば枚挙に暇がないが、大関では豊山(大学相撲出身大関と、元小結の現・湊親方)、栃光(大関と、前金城)、若三杉(優勝経験もある後の大豪と、のち二代横綱若乃花の大関時代まで)。大豪という名ものちに復活している。親子大関「増位山」は、二世力士の草分け。立浪親方の「羽黒山」、二所ノ関親方の「大ノ海」も弟子に四股名を与えているほか、一時出羽海だった武蔵川理事長の「出羽ノ花」も引き継がれた。間隔の短さでは、麒麟児が大麒麟と改名して大関を張っている間に、早くも新・麒麟児が登場。わずか3年の空白を挟み、二十年以上に渡って麒麟児の名は番付最上段に刻まれていた。面白いというか皮肉なのは、力士が髷を切って大脱走した春秋園事件の主役「天龍」の四股名を継いで、昭和40年代後半から50年代初頭に幕内にいた天龍だが、やはり騒動に巻き込まれて廃業、ご存知のとおりプロレスで大成したという話である。

 出羽海、二所ノ関、立浪といった一門の盟主が有望力士を育てられない現代、伝統ある四股名は眠ったままである。それなら分家した部屋にも使用権を譲るなどして、角界全体で話題作りに協力し、将来の大物のスケール感アップに寄与してもらいたい。外国人力士ばかりだと嘆いているなら、四股名だけでも日本古来のなじみ深いものにして、違和感を取り除くのに貢献するべきだろう。例えば、把瑠都が昇進したら、天下の大関の四股名が当て字というのもカッコウがつかない。身長体重がそっくりと伝わる伝説の大関・雷電を名乗らせるくらいの大らかさが必要だと考える。

 

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