大相撲解体新書

競技徹底分析

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六日目 立合各論2 


一. 立合技

(1)序論

 前項までで作者の立合いについての考え方や、ケースごとにどのような技が使われているか等の分析を加えた。
 ここからはようやく体型的な分析を行う。まずは、立合いを「技」という観点で見る。

 「技という観点から見る」とはどういうことかと言うと、例えば「立合い、東方力士は頭から突っ込んで突き放しに行きました。対する西方力士は右差しから組み止めようとしました」と言う状況を想定してほしい。
これを「ぶちかまし」と「右差し狙い」という立合技を出し合ったと見るのである。このように毎日どのような立合技を繰り出したのか注意して見ていると、力士ごとによく使う技がわかる。

 今の例で言うと、東方力士は「ぶちかまし」を出したということになるが、通常ぶちかます時は、頭で当たりながら手でも何らかの動きをしている。
頭で当たりながら右喉輪、左はハズの位置で突き放そうとしていたら、「ぶちかまし」と「右喉輪」「左ハズ」の合わせ技ということになる。
西方力士は「右差し狙い」だが、右は差す動きをしながら左でも何らかの動きをしているだろう。「左抱え込み」や「左おっつけ」、「左前ミツ狙い」などが考えられる。
大抵は複数の立合い技を併用していると捉えている。

 また、立合い当たる体の場所も重要な要素。「右差し」なら、頭で当たりながら覗かせるか、肩で当たってねじこむのか、胸で当たって差し込むのか。
「左上手狙い」なら、頭で当たりながらか、胸で当たりながらか、それとも左に変化して取りに行くのか。
立合技と「当たる場所」との組み合わせによって、より精密に立合いの動き・作戦を捉えることができる。

(2)当たる位置

 技の分析に行きたいところだが、まずは相手と当たる体の部位を整理することにしたい。
 「当たらない」というケースを考え、「変化」も加えた。

部位 得意タイプ メリット デメリット 主な立合技
前進、突貫、
正攻法、スピード、
押し相撲、突押
低さ、角度、勢いに優れる。前に出る動きにつながりやすい。多彩な技に移行できる。 低さが仇になってかわされるリスクがある。当たった後体が離れやすいので組み止めたい力士には不向き。 ぶちかまし、前褌、
モロハズ、おっつけ
本格、堅牢、
技能、怪力
パワー
左右に角度をつけて当たるので、片方の差し手や上手を遠ざけたい場合には有効。当たった肩からそのまま差すのも有効。 真っ直ぐ当たらない分、威力は弱まる。当たった側の廻しは取られやすくなる。技の種類が限られる。 カチ上げ、差し、
体当たり、
本格、スケール、
業師、怪力
相手がよく見えるので捌きやすい。多彩な技を繰り出せる。 角度がつかないので威力も弱まる。相手の当たりをまともに受けるだけの体力が必要。 差し、モロ差し、
カチ上げ、体当たり、
抱え込み、上手、
おっつけ、張差し
突押、スケール、
撹乱、業師
手を伸ばす分、先制できる。相手を立ち後れさせれば有利に押し込める。捕まりたくない相手に距離を取れる。 まともに当たると威力で負ける。引きや手繰りに脆い。ワキが空きやすい。 モロ手突き、
モロ手、張り手
変化 業師、撹乱、
スピード
相手の当たりをかわして優位に立つ。出足自慢の相手の強みを無効にする。一瞬で勝負をつけられる。 読まれると一気に劣勢。消極的と批判される。 上手、出し投げ、
引っ掛け、かっぱじき、
はたき、けたぐり、
八艘飛び

 力士データでも採用している立合い5分類。どこで当たるのかによっても、力士の取り口がかなりわかってくる。

(3)立合い技

 技リストの立合い技をベースにさらに深く分析する。

  解説 位置 効果 前進力 安定 頻度
出る          
ぶちかまし

まともにぶつかって押し込む立合い。肩でぶつかる立合いや、頭で当たる立合い全般を指す場合もあるが、このHPとしては狭義に捉えている。すなわち、「頭で当たって突き放す立合い」を指している。
低さ、出足の面では最強。基本の立合いだが、低すぎると視野が狭くなる。首へのダメージに注意。

B A D B
体当たり 肩や胸の辺りで体ごとぶつかる立合い。これも定義は曖昧。カチ上げとも見分けづらいが、踏み込みの大きさが違う。

頭を下げない分ぶちかましよりも安定するが、体が突っ込むので変化には注意が必要。


B B C D
モロ手突き 体で当たらず、両手を前に出して突いて出る。

手を出す分先制することができるが、いなし・たぐりに注意。

B B B B
モロハズ 頭から当たりつつ両腕をハズの形で押し上げる。まともに両ハズにかかれば一気に持っていけるが、相手もそうそう胸を出してはくれない。大抵は決まらず、ぶちかましっぽくなる。全身が当たりに参加するので、威力は出るがかわされると危険。 A B C E
のどわ 片方の手で喉の辺りを狙って突き上げ、相手の体を起こす。立合いでアゴの上がる力士に有効。ワキが空くので、反対側はワキを締めたい。やや重心は高くなる。

B B C B
突き放し おっつけ、ハズ、のどわ、位置に関わらず当たった勢いで腕を伸ばして突き放す。押すのではなく、距離を取るときに。

C B C C
止める   位置 効果 前進力 安定 頻度
カチ上げ 腕を曲げて体ごと下から上へしゃくり上げて弾き、出足を止めて相手の体勢を起こす。肩をぶつける場合もある。
ワキを固める形で腕をぶつけるので、差し手争いにも有効。自分の出足がつかないのと、上体が浮きやすくなるのが弱点。

B B

C

B
モロ手 モロ手を出して、とにかく出足を止める。 C C C B
おっつけ 相手の差し手を見越し、これを狙っておっつける形を作る。
「いなし」との中間で、少し横に動き横を向かせる技もある。


B C B C
張り手 張り手で出足を止めて、一瞬動きを止める。一発KOもある。 A D C D
あてがい 相手の突き手に対し、下・外から包みこむように当てて力を逃し、捕まえる。
C C B C
組み止める   位置 効果 前進力 安定 頻度
左/右上手 腕を伸ばして上手を狙う。よほどリーチがなければ、やや横に動いて当たる必要がある。
C C B C
前褌 低く当たって腕を伸ばし、前褌を狙う。そのまま引きつけて一気に出ることができる。

A

B

C

C
左/右差し ワキを固めて一方を差しに行く。どこで当たっても差せるが、肩から当たって差すのが多い。
踏み込まずに差しにいくと、腰が入ったりして押し込まれる上、おっつけの的になる。

C C B A
モロ差し モロ差し狙い。肩で当たって一本ずつ差すか、胸を出しつつ一気に二本とも差すか。

A D B C
抱え込み ワザとワキを空けて相手の腕を極める形に持ち込む。
体格差があり、とにかく組み止めたいときに用いる。
C C B D
張差し 張り手で牽制して相手のワキが開いたところをすばやく差す。

素早く動かないと、自分のワキが開き、腰も浮いてしまう。



B C C B
張り上手 張り手で相手をずらしておいて上手を狙う。自分がやや横へ変化したようにも見える。
朝青龍ら外国勢を中心に最近よく見る技で、勝手に名づけた。

C D C D
変化   位置 効果 前進力 安定 頻度
いなし 出てくる相手の突進を横から払ってかわす。

C

  C D
はたき いきなり上から頭を押さえて叩き込みを狙う。頭から当たってくると読んでいるときに。

A

  E D
突き落とし 低く出てきた相手を、体を開いて肩口を狙い、その場に這わせる。 B   D D
かっぱじき 飛び違い様、突き落とすように横から弾く。横に動いて動揺させるのが目的 C   C E
左/右上手 いきなり横へ飛んで、上手を狙う。投げにもいけるが、差して出る相手の出足を呼び込むことも。 C   C C
出し投げ 飛んで横ミツを取るや軽く出し投げを打ち、目標を失った相手の出足を利用して泳がせる。 B   D E
小手投げ 差しに来る相手の腕を、体を開きながら小手に巻いて、出足も利用しながら投げる。 B   D E
たぐり 出てくる相手の腕を掴み、たぐって立合いの出足をそらす。そのままとったりにも。 B   C D
肩透かし 片方差しながら差し手の側に回り、肩透かしを打つ。狙ってやるのは難しい。 B   D E
蹴手繰り 職人技。当たると見せて直前で横に飛び、すれ違い様蹴返しながら腕を手繰り這わせる。 B   D E
八艘飛び 大きく飛び上がり、相手の視界から消えて横や後ろに飛び降りる奇襲中の奇襲。 C   E F
             
特殊   位置 効果 前進力 安定 頻度
ダッシュ立ち かつて旭道山、琴錦が曙に対し徳俵辺りまで下がって仕切り、助走をつけ思い切り突っ込んだ。
C A D G
バック立ち 立合い、サッと後ろに下がって意表を突く。舞の海が開発 D   C G
猫だまし 相手の顔の前で両手を叩いて撹乱する。かつては出羽錦、舞の海が披露。最近では黒海がいきなりやって失敗。 D   D F
半身立ち 半身で仕切る。貴ノ浪が苦手曙の圧力をかわそうと試みたが、意表を突く効果があったようだ。
D E D G
             

 


 

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