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平成相撲史 平成の相撲史を紐解く。いつものようにデータ形式で必要と思われる情報を整理。 普通の優勝力士表では見られない、優勝争いの流れや2番手の力士がわかるようにした。 あわせて場所の内容を3つの基準で評価した。 1年ごとの顔ぶれの変化がわかるように表に整理したので参考にしていただきたい。 横綱大関は昇進順。三役は年内の在位場所数を重視。新入幕と引退は時系列。 場所の内容は、優勝争いと上位陣の動向、三役力士の成績、三賞力士らの活躍を中心に振り返る。 元年〜3年 4年〜6年 7年〜9年
10年〜12年 13年〜15年 締りC 伯仲A 接戦B 躍進B 人気B
注) (決定)は、優勝決定時を表す。「13」、「14」等は決定日。千秋楽決着は、「決」、「巴」、「C」、「D」が決定戦(人数で分類)。「相」は前日まで相星、「直」は1差の相手と対戦して、本割で決定。それ以外は「千」。
<この一年> ついに誕生兄弟横綱 貴乃花不振で時代が動く 貴乃花を中心とした時代に陰りが見られた一年。これまで全休が1場所だけと安定していた横綱が、体調不良のため負けが込んで初場所、春場所を連続で途中休場。故障がちな曙も穴を埋め切れず、そのスキを突いて3大関が入れ替わりに綱取りに挑んだ。初場所貴ノ浪、春場所武蔵丸が優勝の翌場所を飾れずに失敗。夏場所の若乃花も早々に3敗を喫したが、大混戦の展開に助けられて連続優勝。ついにファン待望、史上初の兄弟横綱誕生となった。6年春以来、4年半続いた2横綱3大関の時代を動かした。新横綱若乃花らを抑えて貴乃花が連続優勝して復調を見せたが、納めの場所でまた波乱。下位に転落していたベテラン琴錦が快進撃を見せ、貴乃花らも止められずに平幕優勝を許したのである。上位陣以外が賜杯を得るのは4年秋以来。これを契機に本格的に荒れる時代がやってくる。 横綱大関に安定感がなく、実力派の三役・平幕力士が大暴れした一年。場所を盛り上げたベテラン貴闘力、安芸乃島、琴錦、琴乃若。新大関候補の栃東、千代大海も地力の高さを見せ、大学相撲出身の出島、栃乃洋、玉春日も上位キラーとして定着。中堅の魁皇、武双山、土佐ノ海は押され気味だったが、随所に存在感を見せた。幕内上位に役者が揃ったことも荒れる場所が多かった要因である。三杉里、久島海ら戦国時代を盛り上げた名脇役の退場がチラホラ。準年寄制度がはじまり、名古屋場所以降適用されていった。
<選考理由>貴乃花が乱れ、曙も不振を脱せず。武蔵丸、貴ノ浪も不調で一桁が目立ち、ガクンとレベルが下がった。横綱に昇進した若乃花も昇進後はパッとしなかったが、初の年間最多勝。九州は琴錦にも一矢報いた。貴乃花は心身の乱調で騒がせ、最多タイの優勝2回でも優勝賞には選べない。結局該当なしとなった。若乃花も優秀賞くらいが妥当か。大関候補が乱立して上位を泣かせた格好だが、つぶしあった結果年間三賞は意外な顔ぶれになった。
<十年初場所> 逃げ切り ドラマB レベルD 白熱度B 荒れた初場所 武蔵丸が3回目の優勝 貴、変調途中休場 大荒れの場所となった。初日から両横綱に土。若乃花も星を落として早々と脱落。休場明けの曙は序盤黒星先行で危ぶまれたが、何とか踏ん張る。綱取り貴ノ浪は5日目に土。その後も精彩を欠いて12日目で4敗となり夢は萎んだ。優勝争いは、1敗で貴乃花と武蔵丸が並んでいたが、10日目貴乃花が湊富士の腕捻りに敗れる。すると肝機能障害と高熱でみるみる顔を腫らし、栃東、蒼樹山戦もあっけなく土俵を割った。横綱昇進後初の3連敗。その直後、曙が若乃花に打っ棄られ転落、脳震盪でフラフラしながら取り直しの一番は簡単に投げられた。両横綱の惨状に座布団が飛ぶどころか場内は静まり返った。近年にない異様な雰囲気。貴乃花は初の途中休場となり、2敗目を喫しても武蔵丸は後続に2差をつける楽勝ムード。しかし14日目、勝てば優勝の一番で貴ノ浪が意地を見せ待ったをかける。4敗の3力士にもチャンスが残って千秋楽。武双山は敗れたが、栃東は4敗を守り、結びの貴ノ浪次第では巴戦の期待も出てきた。武蔵丸の相手は、既に負け越してはいるが貴ノ浪、貴乃花を破っている前頭5・蒼樹山。しかし地力の違いを見せてあっと言う間に蹴散らした武蔵丸が、3回目の優勝を決めた。 12勝で優勝の武蔵丸は条件は厳しいが貴ノ浪に変わって綱取りへ。他の3人は10勝に留まった。三役陣が頑張り、関脇武双山、栃東、三役史上最多在位となる小結琴錦が二桁勝ち、三賞を分け合った。栃東は2横綱を破る活躍。小結魁皇も若貴を破ったが、中盤崩れて勝越しが精一杯。新鋭古豪入り乱れる大関レースも楽しみになってきた。平幕は6枚目以内全員負け越し(出島は公傷)。翌場所は千代大海らが一気に上位へ進出する。 <十年春場所> 逃げ切り ドラマB レベルB 白熱度C 若乃花 故障乗り越えて復活V4 曙猛追及ばず 両横綱が連敗スタートという荒れっぷり。貴乃花は4日目も敷島の右四つ寄りに土俵下まで飛ばされる惨敗で連続の途中休場。連続優勝で横綱を掴みたい武蔵丸は初日につまづき8勝と大関昇進後最低の成績。貴ノ浪も8勝に終わる。三役陣も一進一退。そんな場所を、若乃花が全勝で走って引き締める。休場必至と思われた曙も立ち直って2差で追い上げ、13日目優勝を賭けた直接対決へ。ここは曙が待ったをかけた。右四つ、投げに逃げるところをしっかり上手を引きつけて磐石の寄り身で圧倒した。1差となり、共に14日目大関を下して千秋楽に。先に土俵に上がった若乃花、6勝8敗の琴錦に対して立合い左へ飛んで叩き込み、あまりに呆気無い優勝決定。曙は13連勝の猛追だったが連敗スタートは痛すぎた。 大関への足固めをしたかった栃東だが、怪我で途中休場となる。大関候補に振りかかる呪いのような不運。やはり先場所三役で二桁の武双山9勝どまり、琴錦負け越し。魁皇は8勝だったが2横綱を倒して殊勲賞。初金星の千代大海は技能賞。貴乃花、貴ノ浪を破り、曙にも真っ向から突き押しを見舞って玉砕した。先場所の経験が活きた蒼樹山が11勝、土佐ノ海2大関倒し10勝でそれぞれ敢闘賞。 <十年夏場所> 混戦 ドラマA レベルD 白熱度A 若乃花連覇、悲願の横綱へ 3敗10人並ぶ混戦を抜け出す この場所も序盤から荒れ模様。綱取りの若乃花は、前半で2敗と苦しい展開。しかし他の上位陣もぽろぽろと星を落としていく。曙は3場所連続の黒星スタート。前半を盛り上げたのは永遠の大関候補3人。貴闘力が8連勝。1差で貴乃花に並んでいたのが安芸乃島。そして2敗の琴錦は上位3人を食い、9日目八艘飛びで貴闘力の全勝をストップした。この場所復調して1敗で優位に運んでいた貴乃花が湊富士、敷島と初めて同じ相手に連敗。まだ本調子でない。11日目、若乃花は魁皇の掬い投げに屈して3敗。普通ならもう綱取りは絶望というところだったが、この日2敗で並んでいた武蔵丸、琴錦、貴闘力も敗れて早くも3敗がトップに。2横綱、3大関に上記ベテラン3人に出島、旭鷲山を加えた10人が並ぶ未曽有の大混戦となる。潰し合いによって13日目両横綱が後退し3敗は3人に。14日目、武蔵丸は貴乃花に、前頭11・出島は小結安芸乃島に敗れ、曙を下した若乃花が遂に単独トップ。6人が1差で追う千秋楽、貴ノ浪と琴錦が4敗を守っており、敗れれば巴戦以上というプレッシャーの中で大一番。しかし勝負はあっけなく、突っ掛け気味にフワッと立った武蔵丸を横に動いていなした若乃花が一気に押し出して優勝を決めた。12勝は不十分との意見もあったが連覇を果たした若乃花は、場所後横綱に推挙された。 貴乃花は横綱昇進後皆勤場所としては最も悪い10勝5敗。曙、武蔵丸も10勝止まり。両関脇の武双山、魁皇は負け越し。新小結千代大海は3連敗スタートから勝ち越した。三賞は、小結で10勝の安芸乃島に技能、横綱や若乃花らを倒した琴錦に殊勲。二人とも上位戦を終えて有利だったが、格下に取りこぼして賜杯には届かず。1横綱、2大関を破った小城錦も殊勲、平幕の二桁勝利、優勝争いに楽日まで加わった出島、新入幕・若の里に敢闘賞。 <十年名古屋場所> 独走 ドラマB レベルB 白熱度C 貴乃花 復調ひとり旅 若乃花が横綱となり、上位の番付が4年半ぶりに変動。その刺激か、先場所までと打って変わって上位陣は締まった滑り出し。序盤戦の波乱は2日目に曙と貴ノ浪が敗れたのみ。中盤で若乃花、武蔵丸に土がつき、貴乃花がひとり全勝ターン。終盤で後続が自滅したり潰し合ったりで追い風も吹いた貴乃花、12日目平幕ながら唯一の1敗・琴の若の挑戦も、3敗の新関脇千代大海も退けると、14日目2差で追う武蔵丸を叩き込んで危なげ無く優勝を決めた。千秋楽こそ曙が一矢報いて全勝は阻止されたが、初優勝以来最長間隔となる5場所ぶりの賜杯を抱く。10年に入っての絶不調から抜け出した。「引退も考えた」とのインタビューが印象的だった。 新横綱若乃花は2金星献上し10勝5敗。曙11番、武蔵丸12番、貴ノ浪9番と大差がついた。三役は先場所活躍の安芸乃島、琴錦が途中休場。魁皇はツラ相撲で負け越し。千代大海は若乃花と両大関を破って11勝と気を吐き技能賞。2横綱1大関を破った出島に殊勲賞。11番勝った琴の若に敢闘賞。曙から金星を挙げて10勝の貴闘力は受賞無し。十両からの陥落が決定的となった三杉里、小城乃花は引退し新制度の準年寄となった。 <十年秋場所> 競り勝ち ドラマA レベルC 白熱度B 横綱若貴全面対決は千秋楽決着 貴乃花V20 立合い正常化が徹底され両手付きを厳格化。各力士への影響が懸念されたが、「若貴絶縁騒動」が話題となって始まった秋場所。序盤で全勝が消え、両大関は中盤に脱落。3横綱が1敗だったが、曙が9日目から連敗し、奇しくも若貴の一騎打ちになった。13日目若乃花が栃乃洋に敗れ後退。しかし、翌14日目に貴乃花が武蔵丸に敗れ再び相星となって千秋楽へ。先に若乃花が武蔵丸戦。ケンカ四つ、右差しを許して寄り切られる。結びの横綱対決、貴乃花が右四つ左前ミツを取って曙をこれでもかとばかり寄り立て、攻め切って20回目の優勝を決めた。連続優勝で実力で復活をアピールしたが、場所中若乃花の相撲を「基本がない」などと批判するなど珍しくよく語り、騒動に油を注いだ。 武蔵丸が2横綱倒すが11勝、曙と貴ノ浪は10勝。三役は4人とも一桁ながら勝ち越した。千代大海は曙を破るが上位の壁厚く、千秋楽貴ノ浪に敗れて連続の二桁を逃す(技能賞受賞)。貴闘力、武双山、出島は8番。琴の若改め琴乃若は先場所の勢いを駆って若乃花から金星獲得し殊勲賞。敢闘賞は珍しく該当なし。貴乃花から金星を挙げた魁皇、上位初挑戦で武蔵丸を破った若の里は負け越した。 <十年九州場所> 突き放し ドラマAA レベルB 白熱度B 史上初!2度目の平幕優勝 背水琴錦が史上最長間隔の賜杯 曙が休場。3連覇を狙う貴乃花は序盤魁皇・栃東に連敗し後方からのスタート。貴ノ浪も序盤で2敗。連勝スタートを切った武蔵丸、千代大海、貴闘力の両関脇、上位を食い荒らした魁皇も連敗癖を発揮して後退。9日目若乃花が玉春日に押し出されて上位陣は2敗以下に。そのスキを突いて優勝争いをリードしたのが平幕の二人。8年ぶりに前頭二桁に転落し引退危機の琴錦は、開き直って二本差し速攻が冴え、土付かずの快進撃。これを5日目の直接対決で敗れた1敗のみの休場明け土佐ノ海(前9)が追う。12日目、土佐ノ海は千代大海の叩きに落ちて2敗、琴錦は横綱若乃花と当てられスピード勝負の末突き落とされて遂に土がついた。これで上位陣に吸収されるかと思いきや、13日目に大波乱。琴錦は1差となった貴乃花を見事な巻き替えで形勢逆転、両差しで寄り切った。土佐ノ海も若乃花を馬力で寄り切る。14日目、1敗琴錦は貴ノ浪をモロハズで圧倒。これで二人に絞られた。すると土佐ノ海は貴乃花の引きにバッタリと落ち、琴錦の優勝が決まった。平成3年9月に平幕優勝して以来7年ぶり、2回目の平幕優勝は史上初めてだった。4年7月の水戸泉が平幕優勝していたが、平幕優勝も上位陣5人以外の優勝もそれ以来だった。 14勝1敗の琴錦に殊勲、技能。12勝3敗の土佐ノ海に敢闘賞。貴乃花を倒した栃東は10勝して技能賞。2日連続で金星を挙げるなど5連勝スタートだった魁皇は8勝止まり。若乃花から金星の玉春日も8番で共に三賞なし。貴乃花は12勝、武蔵丸11勝、貴ノ浪は8勝止まり。若乃花は昇進後初めて二桁勝てず。関脇は、千代大海が千秋楽若乃花を破って二桁に乗せたが、貴闘力は5勝に終わる。小結は、武双山、出島9勝。琴乃若は10勝と30歳にして全盛期を迎えた。 元年〜3年 4年〜6年 7年〜9年
10年〜12年 13年〜15年
締りD 伯仲B 接戦A 躍進A 人気B
<この一年> 混沌の土俵 1横綱2大関が誕生 貴乃花を中心とした長い安定時代。前年貴乃花が乱調の間に若乃花が横綱に昇進したが、連覇で復権しようとしていた。しかし九州場所で平幕優勝を許し、安定時代はついに決壊した。初場所、貴乃花は序盤から乱れて8勝、その後もケガと不振が続く。曙、若乃花は優勝にあと一歩と迫る場所もあったが故障で休場続き。若乃花は秋場所休場勧告の中強行出場して負け越し、引退届を出す騒ぎに。同時昇進から5年に渡り競い合ってきた2大関は明暗を分けた。春場所は横綱不在の中、両者の相星決戦となる。初場所千秋楽で辛うじて連続勝ち越しをつなげた武蔵丸が、カド番の貴ノ浪を一方的に寄り切り優勝。武蔵丸は翌場所も曙を力相撲で寄り切って横綱に昇進、年4回の優勝。貴ノ浪はこれが最後の見せ場となり、足首が悪化して休場明けの九州場所で負け越して大関を陥落した。5年ぶりの大関も誕生した。初場所若乃花を逆転した千代大海、名古屋場所曙を逆転した出島が劇的な初優勝で大関へ昇進する。千代大海は新大関初日でいきなり出島に変化されてその後途中休場するも、2人ともその後優勝争いにも絡み、大関として定着していった。九州場所は3敗同士で武蔵丸と貴乃花の相星決戦に。力でねじ伏せた武蔵丸が混乱の一年を制圧した。この場所に象徴されるように、武蔵丸が圧倒的とまでは言えないものの、ややリードする勢力図が数年間続いていく。 数々の候補が何度も挑んでは跳ね返された大関の壁。幕内9場所の千代大海、15場所の出島が一気に打ち破った。悔しい旧候補達だが、上位の力が弱まる中、頑張りを見せた。バリバリの候補、武双山、魁皇、栃東は横綱大関を倒しまくり二桁3度。魁皇は優勝次点2回。だが好成績が続かない。土佐ノ海は金星5つ、2度三役で二桁と成長した。ベテランも存在感を発揮、最古参の安芸乃島は初、春、秋と11勝。秋場所は14日目武蔵丸に追いつき、あわや初優勝と期待させた。平幕優勝の勢いが期待された琴錦、初場所貴乃花を再度破るなど上位キラーとして健在だった。琴乃若、貴闘力は三役に定着できず下り坂だった。武蔵丸から金星を挙げた36歳寺尾の活躍も印象深い。新勢力も登場。武蔵川部屋の新怪物・雅山や、新入幕から3場所連続で三賞受賞し三役に達した千代天山、2人の春場所の活躍は印象的だった。
<選考理由>武蔵丸が4度も優勝し、当然初の年間最多勝となったが、70勝という平凡な成績。周りの体たらくという環境も際立つ。4横綱いながらこれに続くのは新大関の2人。同じく優勝1回ながら、新大関で乱れて離脱のあった千代大海を抑え、地味ながら年間2位につけた出島がNo.2となる。土佐ノ海が記録的な上位いじめ。寺尾は一仕事だけだが人気面の貢献は大きく選考。新人レースは快記録が将来性の雅山を上回った。 <十一年初場所> 一騎打ち ドラマAA レベルB 白熱度A 千代大海初優勝で大関へ 千秋楽死闘3番若を逆転 曙は全休。他の上位陣も序盤から崩れる。それを尻目に横綱初優勝を目指す若乃花と関脇千代大海が白星を並べる。千代大海は7日目土佐ノ海の出足に土をつけられ、その後2大関も突破するが12日目安芸乃島を引き技で呼びこんで2敗。全勝若乃花とは2差に広がる。13日目、若乃花に遂に土がつく。14日目千代大海は貴乃花を激しい当たりから引き落とし、若乃花も譲らず、千秋楽1差の直接対決となった。大関への道を走る若武者千代大海、本割では若乃花捕まえかけたところを強引に突き落とし、13勝2敗で同点決勝へ。どうやら大関は確定的となって決定戦。一気に出るのを若乃花が叩いてかわし、両者同時に土俵下へ飛んだ。決定戦史上初の取り直しとなり、今度は左を差し合い、すぐに掬い投げを打って出た千代大海が若さ勝ち。劇的な自力逆転優勝で22歳の新大関が誕生した。 序盤1勝3敗となった貴乃花は立て直したが終盤も崩れ8勝7敗。肥大化して不振の武蔵丸は黒星先行の苦しい場所、千秋楽何とか貴乃花に逆転勝ちして勝越し。連続勝越記録保持者の一番危ない場所だったが、この屈辱から立ち直っていく。貴ノ浪は全く冴えず負け越し。新関脇琴乃若が2大関破り8勝、同じく関脇武双山は2横綱を倒して10勝、殊勲賞。3小結も出島、栃東は勝ち越すも、先場所の覇者琴錦は1横綱2大関を破りながら負け越し。貴乃花から金星の土佐ノ海、玉春日、琴龍は負け越し。安芸乃島は11勝で技能賞。新入幕の千代天山は、同い年の兄弟弟子の活躍に花を添える敢闘賞。 <十一年春場所> 一騎打ち ドラマA レベルC 白熱度B 3横綱不在の場所 大関相星決戦、武蔵丸が制す 横綱が不在となった。曙は3場所連続全休。若乃花は序盤3連敗し立ち直りかけたが故障休場。優勝争いをリードしていた貴乃花も、肥後ノ海に久々の金星を許すと翌日闘牙の肩透かしに右肩を打ちつけてやはり休場。新大関の千代大海は、いきなり3連敗スタート。さらに8敗目となった武蔵丸戦で鼻骨を折って休場、散々なデビュー場所となった。さらに先場所二桁の関脇武双山も序盤で脱臼して離脱した。目玉が次々消えた場所、前半戦を盛り上げたのは2人の若手。新入幕の雅山と、入幕2場所目の千代天山が優勝争いの上位に顔を出し熱戦を展開。彼らの他、安芸乃島、栃乃洋ら下克上を狙う好調力士を沈めて浮上したのが両大関。2敗で残った二人が千秋楽結びで雌雄を決することとなった。若い頃には、強引に抱える貴ノ浪、突き押しの武蔵丸だったが、貴ノ浪は左差し、武蔵丸は右差しの型を磨いており、立合いの差し手争いに注目が集まった。結果は、立ち上がるや、あっけなく両差しになった武蔵丸が一方的に寄り切った。不振で優勝争いから遠ざかっていた両大関だが、横綱と新大関の穴をしっかり埋めた。 西関脇琴乃若は負け越したが、4小結は揃って勝越し。栃東、出島は勝ち星が伸びなかったが、武蔵丸に土をつけた2人、安芸乃島は11勝で殊勲賞、魁皇も10勝した。貴ノ浪に土をつけた旭鷲山、肥後ノ海は共に横綱も倒したが、惜しくも負け越し。金星2つの土佐ノ海も8番では殊勲賞なし。横綱戦勝利の価値が大きく下がった時代でもある。敢闘賞は9勝ながら場所を盛り上げた雅山、千代天山。幕下付出から4場所連続優勝で昇進した雅山とは対照的に、幕下付出として当時最スロー新入幕となった大日ノ出も前半6連勝と健闘した。 <十一年夏場所> 競り勝ち ドラマB レベルC 白熱度B 武蔵丸連覇で横綱昇進 曙、魁皇を振り切る 4度目の優勝を果たした武蔵丸が綱取りを狙った場所、壁となるべき横綱陣だが、貴乃花は全休。若乃花は中盤で負けが込み、左足首を痛めてまた途中休場。半年ぶり出場の30歳曙も初日から連敗して引退かと騒がれたが、辛うじて立て直した。先場所頑張った2大関も中盤星を落とすが何とか踏ん張る。レベルの下がった優勝争いは、平幕闘牙が唯一の6連勝。貴ノ浪、若乃花を倒している琴錦が直接対決を制し、中日1敗でトップに立った。武蔵丸がこれを引きずり下ろすと、2敗闘牙、若の里、3敗貴ノ浪とライバル力士を次々と退けてトップに立つ。3敗勢3人が追う千秋楽、横綱へ最後の壁は決定戦に持ち込みたい横綱曙。武蔵丸は両下手、曙は両上手で200キロをゆうに超える巨漢同士の引き付け合い。曙の懐もさすがに武蔵丸は収まらず、必死に堪えるところを両差し手を抜いて押し倒し。ハワイの先輩をねじ伏せた武蔵丸は連続13勝で連覇、横綱戦が一番のみで取りこぼしも目立つという意見もあったが、前年の若乃花と同成績での連続優勝、横綱に推挙された。 貴ノ浪は9勝、千代大海は公傷全休。3関脇、大関へラストチャンスと期待された32歳安芸乃島は無念の負け越し。魁皇は連続二桁となる12勝で敢闘賞、最大のチャンスを迎える。出島も曙を破るなど11勝も三賞なし。小結は、栃東10勝、貴闘力10敗。先場所に続いて2金星の土佐ノ海は不戦勝含む8勝ながら今場所は殊勲賞。優勝争いを盛り上げて11勝の若の里に技能賞。若乃花から金星、武蔵丸も倒した千代天山は史上初、新入幕から3場所連続三賞となる殊勲賞。もう一人武蔵丸を破った旭鷲山は上位キラーぶりを発揮するも負け越し。2枚目に躍進した雅山は上位の壁を破れず初の負け越し。 <十一年名古屋場所> 一騎打ち ドラマA レベルB 白熱度B 出島、逆転優勝で大関へ 曙復活Vならず 魁皇また先越される 若乃花は全休、貴乃花と千代大海が復帰。上位陣は揃って無難な立ち上がり。10,12勝と重ねて今度こそ大関をと意気上げる魁皇だったが、序盤から自滅した。変わって急浮上したのが西関脇出島。7日目、全勝曙を破って1敗で上位5人とともに横一列に並んだ。優勝争いは派手な潰し合いとなったが、抜けだしたのは横綱曙と関脇出島。出島は貴乃花、千代大海との1敗対決を続けて制すが、11日目後半ダークホースとなった魁皇に待ったをかけられて2敗。脱落した力士をきっちり潰した1敗曙との息詰まるデッドヒートで千秋楽を迎えた。先勝した出島、すると結びの外国出身横綱初対決で武蔵丸が弟弟子の援護射撃とばかり、掬い投げで曙を転がす。決定戦となり、石川出身の準ご当所出島へのコールが響く中、立合い左からおっつけるようにイナすと、泳いだ曙が振り向くところ間髪入れずに左おっつけ右ハズで押し出し。三賞を3つとも獲得し、さらに降って湧いたような初優勝が成った。横綱に本割、決定戦で連勝、三役3場所で千代大海を上回る33勝。文句なしの大関昇進となった。 上位同士の対決に敗れた貴乃花9勝、貴ノ浪8勝、千代大海10勝に終わる。新横綱武蔵丸は3日目安芸乃島に敗れると、中日からリベンジに燃える千代大海、魁皇に連敗して脱落も、終盤意地を見せて12勝。魁皇は勝ち越しがやっとで大関白紙。3人目の関脇栃東は負け越し。小結では、土佐ノ海が1横綱2大関を破って11勝し敢闘賞、3連続三賞の千代天山は全く歯が立たず3勝に終わった。この場所でベテラン栃乃和歌と琴稲妻、大翔鳳が引退。 <十一年秋場所> 競り勝ち ドラマB レベルD 白熱度B 乱戦制し武蔵丸横綱初優勝 若乃花強行出場で引退覚悟の負け越し 4横綱3大関の豪華番付となったが、結果は最悪。若貴は連敗スタート。貴、曙、貴ノ浪が故障で前半でリタイア。5連勝スタートの千代大海も3連敗。2日目に土がついた武蔵丸、出島、雅山、5年ぶりに幕内に戻ってきた和歌乃山らが優勝戦線を沸かせた。武蔵丸は手首が悪く不調、11日目に湊富士に敗れた2敗となったが、1差となるべき若い2大関もお付き合いで後退。1差で残ったのはベテラン安芸乃島だけ。14日目、わずかに可能性を残す4敗千代大海が武蔵丸に3敗目をつける。2人が並んで迎えた千秋楽だが、安芸乃島は7勝7敗の小結武双山に屈する。この場所4敗は全て武蔵川勢から。こちらも援護したい二子山部屋の横綱若乃花だったが、こちらも7勝7敗。10日目の闘牙戦でまた足を故障しながら強行出場、取り直しの一番こそ勝ったが4連敗中だった。武蔵丸の寄りを何とか踏ん張って打っ棄りを見せたが、巨体を浴びせられて万事休す。武蔵丸は横綱2場所目で6度目の優勝を飾った。二子山対武蔵川の構図となったが、覇者後退を告げる場所となった。 三役は、魁皇と武双山が上位を食い荒らすも二桁は勝てず。先場所11勝で期待された土佐ノ海は負け越した。三役最多在位を更新した琴錦だったが、5勝10敗でこれが最後となった。常連の三役力士が弱い上位を倒しても目立たず、三賞は敢闘・技能安芸乃島、2金星の10勝の栃東に殊勲と平幕に渡った。 <十一年九州場所> 混戦 ドラマB レベルD 白熱度A 横綱相星決戦 黄金の右で武蔵丸に凱歌 休場勧告を振り切って負け越した若乃花は、現役続行の条件として回復まで休場。曙も復帰ならず。出場した2横綱も体調は不十分で初日いきなり土、9日目には共に3敗目を喫した。穴を埋めたい3大関だが、土佐ノ海に最初の3日で総なめされた。優勝争いは、2横綱が3敗となった時点で1敗で大関出島、関脇栃東、小結土佐ノ海。波乱が起こるかと期待させたが、ここから横綱が踏ん張る。10日目、栃東、土佐にそれぞれ2敗目をつける。上位戦を終えていた土佐は自滅、出島は二子山勢、栃東は武蔵川勢に引き摺り下ろされた。結果、意外にも2横綱が千秋楽相星決戦で賜杯を争うこととなった。1年賜杯から遠ざかっている貴乃花は緊張の様子で立合い2度合わず、3度目、右四つに渡り合い、貴乃花が上手。武蔵丸の鬼の右腕返しにも必死に廻しを引きつけて寄り立てる。何度も残した重い武蔵丸も遂に棒立ち、貴乃花が最後の力を振り絞って寄る。ところが、土俵際右腕一本で豪快に掬い投げ、貴乃花は見事に一回転してしまった。一気に第一人者となった武蔵丸の驚異的な右腕の威力、貴乃花復活への道の険しさ。複雑な感情を込めて座布団が乱舞する中、貴乃花はしばらく土俵の角に座り込んだままだった。武蔵丸はこの年4回の優勝、他の横綱は0と大差がついた。 先場所に続いて二子山勢にはショッキングな場所。若乃花は復活が危ぶまれ、貴乃花のV逸に加え、14日目闘牙に敗れた貴ノ浪が35場所務めた大関から陥落。先場所孤軍奮闘した小結安芸乃島も、初日武蔵丸を破ったものの燃え尽きたか3勝止まり。貴闘力は2勝に終わった。出島10勝、千代大海9勝、貴ノ浪6勝。東関脇魁皇は後半頑張り11勝で敢闘賞。西関脇栃東も10勝で技能賞。共に貴乃花と2大関を下した。小結の武双山、土佐ノ海も10勝。土佐、武蔵丸と3大関食って殊勲賞。36歳9ヶ月の寺尾は貴ノ浪からの銀星に続いて武蔵丸から金星。技のデパート・舞の海が引退した。 元年〜3年 4年〜6年 7年〜9年
10年〜12年 13年〜15年 締りC 伯仲A 接戦B 躍進A 人気C
<この一年> 毎場所大関が誕生 求心力欠きますます混迷 武蔵川部屋対二子山部屋の対立構造が出来つつあったが、貴乃花が2年間優勝から見放され、若乃花は春場所で引退、貴ノ浪が2度目の大関陥落の二子山に対して、実力No.1の横綱武蔵丸を擁し、新たに2人が昇進して3大関を抱える武蔵川の優勢は明らかになった。初場所で同部屋の連覇は6場所に。ただし武蔵川部屋も時代を築くことまでは出来ない。武蔵丸は手首の悪化で初の休場、連続勝越し記録もストップ。安定感を欠き1回の優勝に留まった。3大関も、出島は伸び悩み、武双山は腰痛がちでストレートの陥落を経験、雅山も新大関で負け越すなど絶対的な力は感じられない。九州場所では、実質新入幕の琴光喜に4人ともしてやられた。絶対王者不在の間、幕尻優勝も飛び出せば、再三大関手前で跳ね返された実力者にも運が回ってきた。そして3年間賜杯と無縁だった横綱曙が奇跡的な復活。2回とはいえ最多の優勝、年間最多勝も獲得した。ロクサン春入門組を中心とした時代の終章は、3横綱5大関から誰が飛び出すか分からない群雄割拠の時代となった。 前年に千代大海が昇進するまで全く開かなかった大関の扉。ところが一転、昇進、陥落、復帰と忙しく毎場所出入りがあった。初場所、関脇に陥落していた貴ノ浪が10勝を挙げて春場所で復帰(翌場所10勝の特権による復帰は三重ノ海以来2人目)。優勝の後の場所を腰痛に耐えながら乗り切った武双山は、夏場所で新大関に。ところが、無理が祟った武双山は新大関場所を全休、復帰したばかりの貴ノ浪も連続負け越しで再度陥落。小結魁皇に賜杯を譲ったものの、毎場所優勝争いに絡んでいた雅山が昇進を決めた。名古屋場所では無理が祟った全休明け大関武双山がデビューするも4勝しかできず最速陥落、新大関雅山もまさかの負け越し。貴ノ浪2度目の復帰の夢は叶わず。しかし魁皇が大関昇進を決めた。魁皇がデビューした秋場所、ライバル武双山も負けじと頑張り10勝、九州では大関復帰を果たした。 横綱若乃花や平幕優勝経験のある琴錦、水戸泉ら平成の土俵の主役が去り始めた。三役には、長年常連だった武双山、魁皇がようやく昇進、ベテランも下降して、栃東、土佐ノ海らが定着したが、やや駒不足。大関から落ちてきた貴ノ浪も簡単には平幕に落ちなかったが、空白を突いて九州場所では3人の新三役が誕生した。新入幕の活躍も光り、栃乃花は2大関を破って12勝で敢闘技能。同郷の高見盛、安美錦も三賞デビュー。新入幕では全休だった学生相撲の雄・琴光喜は、再入幕場所で横綱大関をなぎ倒し13勝、優勝へあと一歩まで迫った。 20世紀最後の年。一年納めの一番は、曙対武蔵丸の200キロ超対決。幕内平均体重が160キロ弱の超大型化時代を象徴する一番だったが、これが横綱曙最後の一番となり、以後200キロ対決は行われていない。前年舞の海が引退、最後の小兵横綱・若乃花も土俵を去った。優勝争いは番狂わせも多く面白くなったが、最後はあっけない結末が多かった。馬力任せの大味な相撲が増え、負担増による休場力士の増加が嘆かれていた。
<選考理由>長く低迷を続けた曙が復調。あと一歩で逃してきた優勝も2度飾り、年76勝は自己最多。武蔵丸は金属疲労を起こして2度の休場があり、同じ優勝1回なら年間勝利2位の魁皇を優秀力士とした。年間三賞は、大関昇進の3人が分け合った。新人は新入幕で大関2人破って12勝の栃乃花が秋にも三賞を取って確定的だったが、九州の活躍だけで琴光喜が肉薄、同時受賞となった。 <十二年初場所> 競り勝ち ドラマA レベルC 白熱度B 武双山初賜杯 武蔵丸の穴埋め武蔵川六連覇 4横綱は今場所も揃わず。若乃花は全休、連続55場所勝ち越しの記録保持者・武蔵丸は慢性化する左手首の故障が悪化して4日目から突然休場、遂にストップした。優勝から遠ざかっていた2横綱はチャンスだったが、貴乃花は9日目に早々と3敗。曙は久しぶりの全勝ターン、優勝争いをリードした。雅山の逆転技に敗れて並ばれるが、11日目武双山が2敗目を喫し再度単独トップ。ところが12日目栃乃洋に金星を許して2敗勢に引きずり込まれた。またも混戦模様の優勝争い。14日目、雅山は平幕下位の隆乃若に取りこぼし、曙も千代大海に敗れ3敗に後退。初めて武双山が単独トップとなり千秋楽。雅山が先勝し、敗れれば巴戦となる武双山、一世一代の大勝負。相手は、同い年で長年大関争いを繰り広げた魁皇。魁皇が中途半端な変化に出るところを一気の押しで吹っ飛ばし、本割で初優勝を決めた。殊勲、技能も合わせて受賞。本命武蔵丸不在でも、雅山と共に優勝を争い部屋の連覇をつないだ。層の厚さを見せつけた。 久しぶりに千秋楽結びの一番となった相星の曙貴戦は残念ながら消化試合、貴乃花勝って12勝。2大関は序盤に崩れて蚊帳の外だった。2関脇は存在感を見せられず栃東8勝、ライバルに惨めな負け方でアシストしてしまった魁皇はその一番で負け越した。貴ノ浪は好スタートも12日目に5敗と後がなくなったが、執念の3連勝で二桁勝利。1場所での大関復帰を果たした。小結は、雅山が12勝と平成の新怪物らしい存在感を見せた。上位に弱いという汚名返上の殊勲賞。土佐ノ海は貴乃花を破り8勝。平幕好調の旭天鵬、隆乃若に敢闘賞。1横綱1大関を倒した琴龍、琴ノ若は惜しくも負け越した。 <十二年春場所> 逃げ切り ドラマAA レベルC 白熱度A 史上初幕尻V 貴闘力が最スロー優勝の奇跡 武双悲願の大関、若花ついに引退 武蔵川部屋全盛期。これを象徴する6連覇をストップしたのは、やはり二子山部屋の力士。殊勲者は、兄弟横綱でも再大関でもなく、引退の危機に立たされた幕尻の老兵だった。もっとも、進退が注目されたのは平成大相撲の主役の一人、横綱若乃花。完全回復までの休場を勧告されていたが、死に場所を求めるように3場所ぶりの出場に踏み切った。しかし、連日の手拍子の大声援虚しく一進一退。5日目、高校の後輩・栃東に敗れ3敗、技能力士の系譜を託して引退した。平成第二の4横綱時代は、初日に全員が揃ったのは2回だけと看板倒れに終わった。 3横綱は好調とは言えないものの、2敗で並び終盤へ。3大関は中盤崩れて早々と圏外。先場所同様武双山と雅山が星を伸ばし、やはり2敗で終盤を迎える。いよいよ直接対決で混戦に決着、のはずが全勝力士がいた。幕内最下位の前頭14枚目、10年守った幕内から陥落の危機に立つ32歳貴闘力である。三役戦が組まれたが、11日目土佐ノ海を叩き落し、12日目は2差で追う武双山も張り手からの叩き込みで沈めて、優勝に王手をかけた。予想外の快進撃に焦ったのは審判部。何と曙-武蔵丸の横綱対決を回避する異例の割崩しで、幕尻ストップにかかった。キラーと呼ばれた貴闘力も、これまで同様大事なときに勝てない。この両横綱に連敗した。しかし、上位同士も直接対決で潰し合い。雅山に3敗目をつけた貴乃花は、出島に敗れて自身も3敗となったが、14日目久々に武蔵丸を破る援護射撃。2敗貴闘力を3敗で5人が追う千秋楽となった。貴闘力を決定戦に引きずり込む役割を任されたのは3敗勢の一角・雅山。馬力に任せて一気に押し込んだが、土俵際貴闘力が奇跡的な回り込みで送り倒し。引き技の名手が最後に本領を発揮して、決定戦に意気込む群雄に肩透かしを食らわせた。幕尻としては初、初優勝までの所要場所数も最長と記録ずくめの平幕優勝となった。3度目の殊勲、史上最多10度目の敢闘賞も受賞した。 曙12勝、貴乃花、武蔵丸は11勝。大関は出島が11勝と昇進後最高の成績。7-7で千秋楽の2大関は、千代大海勝越し、貴ノ浪負越し。3関脇、武双山は腰痛を抱えながら12勝して技能賞、優勝を含む3場所連続二桁、文句なしの大関昇進を決めた。悔しい思いをした雅山も11勝で敢闘賞、来場所は大関取り。栃東は2横綱2大関破るも8勝止まり。小結土佐ノ海、魁皇も貴乃花を破ったが8勝止まり。 <十二年夏場所> 三つ巴 ドラマB レベルA 白熱度B 魁皇、両横綱かわし初優勝を飾る 雅山も大関へ 新大関武双山と横綱武蔵丸が全休。その他、新入幕の琴光喜や故障で十両に陥落した琴錦ら8人の関取が全休と、この頃休場力士の多さに批判が集まり出した。優勝争いは、2横綱と小結魁皇、さらに新入幕の栃乃花が1敗で並走。千代大海や大関取りの雅山が追いすがった。魁皇は3大関を倒し、曙には敗れたが貴乃花を下した。11日目、魁皇が1敗で並ぶ栃乃花を小手投げに下す。その栃乃花だが、3敗と圏外になるが2大関も食う。千代大海は3敗目で脱落、貴ノ浪は8敗目で大関陥落と、どちらも新入幕相手に痛恨の黒星を喫した。13日目、貴乃花が後退。大関戦を無敗で突破した曙と早々と上位戦を終えた魁皇が1敗、1差に貴乃花がつけて千秋楽。まず魁皇が玉春日に完勝。すると結び、曙が優勝の消えた貴乃花に敗れて魁皇の優勝が決まった。長年大関候補と呼ばれ、優勝決定戦にも2度進出した大器がようやく大輪の花を咲かせた。初場所でライバル武双山に中途半端な相撲で優勝を献上した悔しさを晴らした。 両横綱13勝、復調したが賜杯に見放されている。大関は出島が8勝、千代大海は11勝、貴ノ浪は大関復帰後連続負け越しで、再び陥落。三役は雅山が11勝と粘り敢闘賞、3場所34勝としたが上位戦の成績も物足りなく、審判部で紛糾の末異例の満場一致ではない大関昇進。1横綱3大関を倒した栃東は終盤3連敗で三賞も逃す。小結は土佐ノ海が9勝、魁皇は14勝で殊勲(9!)敢闘(5)も獲得。貴闘力は先場所と白黒正反対の2勝13敗。新入幕大活躍の栃乃花は12勝して敢闘・技能。 <十二年名古屋場所> 独走 ドラマA レベルC 白熱度D 曙V10、19場所ぶり復活 魁皇も大関昇進 上位は貴ノ浪が陥落、雅山が昇進して3横綱4大関変わらず。新大関雅山は連敗スタートで調子が上がらず負け越し。実質新大関の武双山も、腰痛悪化で全く勝てなくなり4勝11敗で最短陥落。休場明け武蔵丸も冴えず5敗を喫した。魁皇戦で肘を痛めた貴乃花は途中休場。曙のひとり旅となり、12日目千代大海とようやく現れた同部屋・高見盛が3敗目。13日目雅山を下して曙が優勝を決めた。何度もあと一歩に迫りながら届かなかった10回目の賜杯は、あまりにもあっけなく手中に入った。安定した四つ身の相撲が目立った。こうなると初の全勝が期待されたが、3年ぶりの優勝に気が抜けたか連敗した。先輩2大関は二桁勝ったが賜杯は遠い。大海は横綱に全勝しながら、隆乃若戦待ったと勘違いして敗れた一番がもったいなかった。 何度目かわからない大関取りに挑んだ東関脇魁皇。10日目栃乃花に敗れて6勝4敗と絶体絶命だったが、執念の5連勝でようやく勝負弱さを返上、大関の夢叶った。特に14日目の武蔵丸戦は徹底して右を嫌い、頭をつけて2分以上の熱戦。必死に我慢して、スキをついて足を払っての上手出し投げ。技ありの投げで大きな10勝目を手にした。殊勲賞は10回となった。西関脇栃東も頑張り2横綱3大関を破り技能賞。2度目の復帰を狙った貴ノ浪は、序盤武蔵丸に3大関、魁皇も破って期待されたが、平幕相手に連敗して負け越し。惜しくも2回目の奇跡は起きなかった。四国出身の両小結は負け越した。新入幕高見盛と安美錦は揃って敢闘賞。その後10年以上存在感を発揮する津軽の両雄、上々の幕内デビューだった。 <十二年秋場所> 逃げ切り ドラマC レベルB 白熱度C 武蔵丸5場所ぶり優勝 貴乃花は休場。序盤は上位陣安定し、まずまず締まったスタート。初日曙が安芸乃島に敗れたが、武蔵丸と千代大海が5連勝、他の3大関も1敗で乗り切った。中盤に入り大関陣は後退。全勝武蔵丸を1差で曙が追った。12日目曙が2敗魁皇を下し、2横綱のマッチレースに持ち込んだが、翌13日目出島に敗れ痛恨の2敗目。2大関も圧倒した武蔵丸が千秋楽を待たずに優勝を決めた。11年は4度の優勝を果たしたが、12年は故障休場もあってようやく初の賜杯。初優勝時以来の全勝に挑んだが、曙の気迫の前に阻まれた。曙は連覇は逃すも13勝と安定している。新大関魁皇11勝、千代大海、出島10勝。雅山は14日目にようやくカド番脱出。今年3人目の最短大関陥落は免れたが、三役の頃の勢いはどこへやら。 関脇に陥落していた武双山
<十二年九州場所> 逃げ切り ドラマA レベルB 白熱度A 曙有終のV11 上位7人斬りで新星琴光喜かわす 毎場所上位陣の顔ぶれが変わった激動の一年、納めの場所では武双山が復帰し3横綱5大関。看板倒れにならず、全員が皆勤、勝ち越した。前半揃って好スタート。曙、魁皇、武双山が1敗を喫したのみ。6日目には早くも大関対決が組まれ、魁皇が出島に土をつけた。7日目武蔵丸も千代天山に不覚。後半は潰し合いとなる。ストレートの給金はしばらく不振だった貴乃花と雅山。しかし共に9日目から連敗。1敗同士の対決で魁皇、貴乃花を破った千代大海だったが、11日目曙に敗れて以後連敗。同日、もう一番の1敗対決は再入幕の琴光喜が、横綱武蔵丸を破る大波乱。2分を超える熱戦の末、内無双からの出し投げが見事に決まった。12日目は貴乃花の小手投げに惜敗して2敗となった琴光喜だが、さらに武蔵川3大関を連破してただひとり1敗曙を猛追。しかし、曙は他の7人の上位陣と総当たりながら孤軍奮闘。5大関を突破すると、貴乃花戦は立合い右に動いて上手を取り速攻。勝負への執念を見せて対戦成績を五分に。そして千秋楽、20世紀最後の一番。2敗を守った琴光喜との決定戦を待望する雰囲気の中、武蔵丸との重厚な四ツ相撲、終始攻勢に出て寄り切り、優勝を決めた。翌場所全休し場所後引退した曙は、これが最後の一番。苦しい時期が長かった横綱時代だったが、まさに有終の美を飾る場所となった。 武蔵丸、貴乃花、魁皇11勝。他の4大関は9勝に留まった。上位の好調にフレッシュな三役は敵わず、新小結栃乃花3勝、新関脇追風海は2大関を破るが途中休場。関脇復帰の貴ノ浪は8連敗で負け越し三役陥落。新小結の若の里も3日目に曙に勝つも星が上がらなかったが、後半8連勝で殊勲賞を獲得した。初めて幕内の土俵に上がった再入幕の琴光喜は13勝2敗。武蔵川上位陣を総なめするセンセーショナルなデビューで三賞3つとも獲得(平成では貴花田、出島に次ぎ3人目)。三賞はなかったが、二桁勝った栃乃洋、隆乃若も一気に三役昇進。 元年〜3年 4年〜6年 7年〜9年
10年〜12年 13年〜15年 |